2020.04.07
香月泰男「青の太陽」
「シベリア・シリーズ」この言葉からご存知の方はすぐにある画家を彷彿させることができるのではないでしょうか?
第二次世界大戦に召集され、敗戦後そのままシベリアに連行、抑留された経験を持つ、山口県出身の香月泰男先生です。
シベリア抑留から生き残った画家 香月泰男
香月先生の代表作「シベリア・シリーズ」は1947年~1974年の約20年間書き続けれ、57点あります。このシリーズでは独特な色調が確立されました。具体的にはシベリアという極北厳寒の地の土の色や大気の色彩などを追求した結果、方解末を混ぜた黄土色の地色に黒を重ねるのを基調色として設定し、その黒は木炭の粉を使った苦心の手作り絵具によるものです。
香月先生がいつも身近から手放さなかった絵具箱の蓋裏に記していた12文字があります。
「葬・月・憩・薬・飛・風・道・鋸・朝・陽・伐・雨」そのうちの大半はシベリア・シリーズのタイトルとなっており、この抑留中に死と隣合わせのギリギリの境遇にいながら、当時から幾つかの作品の主題と表現を完全に煮詰めていたと考えられます。
またこのシリーズは多くの場合「言葉書き」を添えて紹介されるという特異な作品でもあります。この「言葉書き」は先生自身の言葉で作品の横に展示されており、個展では定番となっておりました。
香月泰男による黒と黄土色を基調とした作風
晩年には海外にもよく旅行もされており、作品にも変化が現れております。
そのうちの一つが黒へのこだわりがやわらいだことです。本来は色を効果的に使うことにすぐれていた香月先生ですが、シベリア・シリーズの中では赤や青や黄を一色だけ、きわめて印象的に用いておりました。しかし晩年になると黒を極力抑えてほとんど白で覆われた画面作りや外国旅行で取材した作品などでは赤や黄色など、一、ニ色の組み合わせを楽しんでいるような作品も見受けられます。
香月先生は抑留の経験から太陽信仰を持たれていたということもあり、太陽を描く図柄も多く人気図柄の一つかと思われます。また鳩もお好きだったので鳩小屋も作っておられ、鳩小屋の木を使い、そこに鳩を描いている作品もあります。
数多くの作品を残されている先生ですが、戦争の悲惨さを知っただけに平和の尊さを知った画伯であるからこそ、他の画家には真似をすることができない表現を出せたのだと重います。