2024.02.20
詩情あふれるモダンアートの先駆者 山口薫
昔から馬が題材とされた有名絵画は沢山存在しています。近代絵画の作家では坂本繫二郎や白馬を描いた東山魁夷、中畑艸人やブラジリエ等が描いた馬が思い浮びます。大地を駆け、躍動感溢れる馬の絵も素敵ですが、人々と営みを共にする優しい馬の絵はどこか安らぎを与えてくれるようです。
今回はモダンアートの先駆者である山口薫という、優しい色使いでどこか詩情あふれるモダンな絵画を描く作家をご紹介いたします。
国内外で高い評価
山口薫は群馬県出身で東京美術大学(現東京芸術大学)で西洋画を学んだ後フランスに留学し、エコール・ド・パリ(パリ派)の影響を受けました。絵画史に残る数々の作品を生み出し、国内外で広く評価を受けます。東京芸術大学の教授となり、自身の作品で日本のモダンアートを牽引するだけでなく若い世代を多く育てました。
1930年、東京美術学校を卒業後フランスに渡った山口薫は、イタリアやスペインなども見て回り海外の影響を大きく受けます。帰国後は日本にモダンアートを普及させる先駆者となり、モダンアート協会展や新時代洋画展などを立ち上げました。1956年現代日本美術展で佳作賞、1958年グッゲンハイム国際美術展日本国内賞を受賞、1959年毎日美術賞、1960年芸術選奨文部大臣賞を受賞など数々の実績を残し、名実共に高い評価を受けていました。
生命力溢れる絵画
1907年生まれで戦前から戦後までを知る山口薫は、戦時下は疎開して実家の農業を手伝っていました。そのときに世話していた牛も、後に作品として登場します。生まれたばかりの子牛の立ち上がろうと懸命な姿や親牛の愛情を間近で見て、戦時下においても不変な命の尊さを感じたのでしょう。晩年においても牛や馬など命を感じさせるモチーフを描いたり、故郷の田園風景や家族を描いたりすることが多く、生きる喜びや苦悩といった強い想いが作品から溢れています。
病の中でも描き続けた心象風景
1964年東京芸術大学の教授となり、自身の技巧やモダンアートを教授。若き才能を多数輩出しました。弟子には大津英敏らがおり、夭折の天才画家と評される有元利夫らにも影響を与えました。
1967年、胃がんの診断を受けた薫は入退院を繰り返すようになりましたが、その中でも描くことをやめませんでした。自身の生命の灯火が小さくなる気配を感じながら描く作品は、研ぎ澄まされた繊細さと心温まるノスタルジックさがあります。60 歳でこの世を去りましたが、亡き後も東京芸術大学陳列館にて山口薫追悼展が行われたり、京都国立近代美術館において山口薫回顧展が行われたりするなど、作品と共に愛され尊敬された洋画家だということがわかります。
現在、山口薫の作品は出身である群馬県の群馬県立近代美術館に多く収蔵され、展示会開催中は公開されているようです。40号サイズの迫力ある絵画もありますので、ぜひ鑑賞してみてください。