2023.06.06
竹久夢二 -黒船屋をひもとく-
2020年2月、この作家紹介で竹久夢二(たけひさゆめじ)の「黒船屋」についてお話させていただきました。
黒船屋は伊香保にある竹久夢二伊香保記念館で、作品保護の観点から毎年9月16日の夢二の誕生日前後の2週間だけの公開のため、当時9月に伊香保へ行く計画を立てていました。しかし、その年からコロナが流行してしまい、なかなか行けずにいましたが、コロナが落ち着いてきた昨年9月に念願叶い、やっと足を運んで鑑賞することができました。
今回はこの竹久夢二の代表作「黒船屋」をご紹介したいと思います。
黒船屋の依頼人
「黒船屋」は大正7年、表具屋彩文堂の飯島勝次郎が表装展覧会に出品するための作品を夢二に依頼したものです。愛する彦乃との別れの後であまり乗り気ではない夢二でしたが、知人の紹介とあり引き受けます。そして彦乃への想いを絵筆に託し、翌大正8年に完成させました。
絹本に水彩絵の具を用いて女性と黒猫が描かれている黒船屋は、飯島の手により軸装が施されます。130×50.6cm、濃紺の緞子が使用され、それを2mm程度の細い金箔の線で囲み、作品を引き立たせるよう見事に仕立てられました。
飯島は娘のように48年間大切に保管しましたが、その後、夢二研究家の長田幹雄のもとへと託します。
長田のもとで一層大事に保管され、昭和55年には代表作として郵政省の記念切手にもなり、画商にとっては喉から手が出るほどの作品となっていきます。
黒船屋の嫁入り
譲ってくれるよう頼む人も多かった黒船屋ですが、長田は首を縦に振らず、伊香保の竹久夢二記念館の館長に託します。黒船屋を託された館長は、最高の状態で展示するために館内に黒船屋のための特別室「蔵座敷」を設けます。「蔵座敷」には黒船屋の寸法に合わせた床の間が造られ、部屋全体の色調やデザインなど、細部にわたり作品を引き立てるための設計がなされています。
黒船屋は夢二の手から離れ、飯島勝次郎から長田幹雄へと大切に守られ、伊香保の竹久夢二記念館に安住の地を得ました。
夢二の想い
この作品で目を引くのは、黒猫と透き通るような女性の肌の白さです。
黄八丈の着物を着た女性が抱いている黒猫は夢二自身で、猫の姿を借りてそこに自分の想いを重ねました。女性の腕の中で無心に甘える黒猫に対し、女性のまなざしは黒猫からそらされています。自分の切ない気持ちを現しているのではないでしょうか。
夢二はフランス製の水彩絵の具を好んで使用していたようです。色についても独自の意識を持っており、その中でも赤は恋、緑は旅、黄色は酒を意味するとされていて、黒船屋にはこの3色が印象的に使用されています。黄色い着物に緑の帯、大切なものをしまう櫃は赤く塗られており、彦乃との思い出を大切にしまっているかのようです。
参考資料:竹久夢二伊香保記念館