2024.04.02
石ノ森章太郎 ~多彩な表現をマンガにした漫画家~(前編)
私の部屋に置かれた一冊の本、『あかんべえ天使』。
大学生の時、東京・神保町の古本屋さんでこの作品と出会いました。この本を手に取ると当時の懐かしい気持ちがよみがえります。
この本の作者は昭和を代表する漫画家、石ノ森章太郎です。石ノ森はSFやギャグ、少女マンガ、時代劇、大人向けの現代劇、学習マンガなど、幅広いジャンルの作品を数多く遺しました。今回は、石ノ森章太郎について、彼の代表作と共にご紹介したいと思います。
憧れから漫画家へ
石ノ森は1938年1月25日、宮城県登米郡石森町に生まれ、今年2024年で生誕86周年を迎えます。なんと『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』など数多くのSF作品を生み出した松本零士と同じ生年月日だそうです。
幼少期から単行本や雑誌などの本をよく読み、手塚治虫の『新寶島』を読んだことをきっかけに手塚治虫のファンになった石ノ森は、中学生のとき「毎日中学生新聞」のマンガ欄に投稿し初入選。高校生の時には「漫画少年」の常連入選者となります。
高校2年生の夏、手塚治虫から電報が届き、マンガ誌「少年」に連載中の『鉄腕アトム』<電光人間の巻>の作画アシスタントをすることになりました。同年秋、再び手塚治虫に東京に呼ばれ、雑誌「漫画少年」の記者に連載の話を持ちかけられ、弱冠17歳で『二級天使』という作品で連載デビューを果たしました。
石ノ森と女性マンガ
高校卒業後には上京してトキワ荘に転入。石ノ森は両親の反対を押し切って上京しましたが、「漫画少年」は上京してまもなく廃刊になってしまいます。その時、手塚治虫の『リボンの騎士』を担当していた雑誌「少女クラブ」の編集者 丸山昭より依頼を受け、少女マンガの連載をスタートします。今でこそ少女マンガは女性の漫画家が描いていることが大半ですが、この頃は女性の漫画家というのは殆どおらず、男性漫画家の多くが少女マンガを描いていました。また、「少年クラブ」「少女クラブ」は戦前からある雑誌で、男女平等など戦後の変わりゆく世の中で、女性マンガは特に変化を求められていました。
編集者から「何か新鮮なものを」と望まれて石ノ森が描いたのは、コナン・ドイルの翻案物の『まだらのひも』というミステリー作品でした。さらに、石ノ森はその後ミュータントやテレポーションというマニアックなSF用語を用いたSF作品を発表したのです。(『幽霊少女』)
これらの石ノ森作品を読んで育ち、漫画家になるための『マンガ家入門』に感化され、読み手から描き手へと成長していった女性の漫画家が、少女マンガで活躍するようになりました。石ノ森の作品をきっかけに少女マンガは新しい別の文化として発展していったのです。
冒頭でお話させていただいた『あかんべえ天使』も彼の少女マンガの作品のひとつです。読み終わった後にちょっぴり切なさが残る作品で、この作品と出会った時の想い出と共に今でも大切にしています。
先日放送されたお宝鑑定団では、彼の初期作である『水色のリボン』が紹介されました。
この時代の作品は、復刻版が出版されることもありますが絶版している作品が多いため、非常に貴重な作品と言えます。
さて、石ノ森は「少女クラブ」で多くの少女マンガを発表したその後、『サイボーグ009』や『仮面ライダー』など、彼の代表作となる作品を発表します。
彼の代表作となる作品については後半にてご紹介したいと思います。