2019.09.24
棟方志功「女性礼賛」
枚数が刷られている版画と肉筆の油彩画、同じ作家が描いているとすればどちらが高い値段で取引されると思われますか?一般的には油彩画でしょう。しかし、この作家に関しては違ってきます。今回は肉筆の油彩画よりも木版画が高値で取引されるという、日本を代表する版画家の棟方志功をご紹介したいと思います。
棟方志功の人物像と版画家へと至る道
少年時代にゴッホの絵画に出会い画家を目指した棟方志功ですが、油絵を展覧会に出品するも落選が続きます。極度の近眼から遠近法がうまく表現できなかったという説もあります。
そんな棟方志功はゴッホが浮世絵を高く評価していたことも影響し木版画の可能性に気づきます。そのスタイルは特徴的で底の厚い眼鏡が版木に付くのではないかというほど顔を近づけ板画を掘っていきます。西洋の遠近法ではなく、板に主観的に表現する方法に道に見出し、代表作ともなった文殊(もんじゅ)・普賢(ふげん)のニ菩薩と、釈迦の10人の高弟の姿を彫った「二菩薩釈迦十大弟子」でベネツィア・ビエンナーレにて日本人として初の国際版画大賞を受賞。版画家としての道を確固たるものとしていきました。
棟方志功の作品の特徴
棟方志功は自身の版画を「板画(ばんが)」と称しました。木の「板」がもつ性質を大切にし、木の声、いのちを聞き、自身が彫るのではなく「板の中に入っているものを出してもらう」といった思いから板画という字をつかっていました。また、肉筆の水彩画は「倭絵(やまとえ)」といわれ、こちらも板画同様に高い評価をうけています。
一般的に版画作品は限定の部数を区切り一度にまとめて制作されますが、志功はこういった枠にとらわれず注文があった時などに一枚ずつ制作しています。結果として同一絵柄であっても手彩色の仕上がりがそれぞれ異なるため、一点ずつがオリジナルという形で希少性を保つことが出来たのではないかと思います。
こうして作られる作品には詩や文学から共感を得て制作されるものもあり、交流のあった谷崎潤一郎の作品「鍵」では挿絵を手掛けています。
また、棟方志功は様々なモチーフの作品を残しました。「鯉」「鷹」「梟(ふくろう)」などの生物や「風景」「静物」など、中でも「仏」と「美人大首絵」は棟方志功を代表する非常に評価の高いモチーフで高額の査定価格になる作品が多い傾向にあります。女性の胸像をとらえて描く「美人大首絵」は、女性の中に宿る仏性への礼賛を表したとされています。その根底には家族を守ってくれた母への思いや、棟方志功を支えてくれた妻のチヤへの感謝があったのではないでしょうか。
棟方志功の贋作について
高額な作品相場があり木版画で比較的コピーがし易いという性質上、贋作を目にすることの多い作家でもあります。中には鑑定書の偽物がついている作品も出回っております。そのため、作品をお取引いただく際は所定の鑑定機関である「棟方志功鑑定会」の鑑定登録をおこなっております。
弊社では毎年数十枚とお取り扱いする機会をご依頼いただいておりますので、過去の資料や経験から高い精度で査定をおこない、真贋を判断した上で鑑定機関に鑑定を依頼することが出来ます。鑑定登録の前の事前査定を承れますので、売却をお考えの際は是非ご相談ください。