2022.12.13
格調高き美人画を描いた日本画家 伊藤小坡 (いとうしょうは)
三重県人のみならず日本人の心のふるさとである伊勢神宮。私の実家が三重県にあることもあって、年末年始に帰省する際には伊勢神宮にはかかさず参拝しています。
伊勢神宮内宮から徒歩圏内にあり、万事最も良い方へ“おみちびき”になる大神として伝えられる猿田彦大神を奉る猿田彦神社。その神社に隣接するかたちでひっそりと佇むかたちで「伊藤小坡美術館」があります。今回は、明治から昭和にかけて京都画壇の中心として活躍した伊藤小坡(1877-1968 明治10年~昭和43年)をご紹介いたします。
猿田彦神社の宮司の長女に生まれた小坡
小坡(本名 佐登)は三重県伊勢にある猿田彦神社の宮司の長女として生まれ、90歳で亡くなるまで、明治・大正・昭和の時代を風俗画・美人画を描きました。
3人の子宝にも恵まれ、温かみのある柔らかな筆遣いは妻として、母親としての目線から描かれます。源平の物語や虫と遊ぶ子供、女性像を題材にした作品は大変賞賛され、京都を代表する日本画家として活躍しました。
伊藤小坡美術館が蒐集した展示品には代表作といわれる作品群が並びます。中でも《秋好中宮図(あきこのむちゅうぐうず)》と《伊賀のつぼね》には、思わず目を奪われます。
《秋好中宮図》昭和4年(1929)第10回帝展出品作
秋好中宮は、『源氏物語』に登場する女性です。
昭和3年、竹内栖鳳の竹杖会に入った小坡は、普段の何気ない生活の一場面を女性・妻としての視点から捉えた親しみを感じる風俗画から、歴史・物語を主題とした格調高い美人画を描く画家へと移行していきます。その特徴をとられた本作は、全体に貼った金箔の上に墨と日本顔料を幾重にも重ねて金による煌びやかな眩しさを取り除くことで、重厚な品格を漂わせています。
《伊賀のつぼね》昭和5年(1929)第11回帝展出品作
後鳥羽上皇の寵愛を得て院中近く召しつかわれた白拍子、亀菊(伊賀の局)を描いた作品。
浮世絵等の題材として用いられる場合は、亡霊を一喝する場面を亡霊と共に描かれますが、本作には亡霊は除かれるかわりに、着衣の乱れやどこか異様な雰囲気の表情が描かれており、小坡の得意とするいつもの美人画とは異なる表情がみてとれます。
この下絵は三重県立美術館に収蔵されています。
まだまだ他にも小坡が好んで描いた、子供を題材にした《虫売り》など、誰もが懐かしみ、ほっこりとする作品が観賞できます。
平成23年にリニューアルされた美術館内には、新しく収蔵された大作《幻想》も展示されています。また500冊を越える資料や映像による解説等、お伊勢参りのあとにでも立ち寄られてはいかがでしょうか。