2021.05.25
林正太郎 美濃焼の世界
桃山時代に美濃で生まれた志野
何の変哲も無い茶碗や花瓶にも何とも言えない味や風格を感じますが、どんな焼物が好きなのかと聞かれると、私はゴツゴツして荒々しくパワーを感じる志野にそそられます。
志野焼と言えば、人間国宝である鈴木蔵や加藤孝造をはじめ数多くの作家が現在も活躍しています。そこで、今回は岐阜県土岐市出身の林正太郎を紹介したいと思います。
美濃現代陶芸の追究
絵画や陶磁器をはじめとした芸術家は、多くの場合は幼年期から才能を発揮していたり興味を持っていたりというエピソードがありますが、林正太郎は窯元の家に生まれながらも作陶に興味を持っていなかったそうです。そんな林正太郎が陶芸の道に入ったのは、高校卒業後に地元を離れて就職したものの一年足らずで仕事を辞めて郷里に戻り、兄の孝太郎に師事してからでした。
作陶に目覚めた林正太郎の作品は瞬く間に評価され、個展も開催するようになります。そんな中、ある個展で来場客の一人が言った「美濃で作陶するなら志野だ」という言葉に影響を受け、それまでは美濃焼(黄瀬戸、瀬戸黒、織部焼など)も作陶していましたが以降は志野に専念するようになったそうです。
林正太郎の作品の魅力は、桃山時代の志野焼を再現しつつ培った伝統に対する深い造詣と研究、そして独自の工夫をそこに積み重ねていったことにより生まれたものだと思われます。中でも、万葉彩や群青志野といった作品は実際に間近で鑑賞すると見惚れる程です。
作陶に込められる熱意
林正太郎で検索していただくと、土岐市公式チャンネルの動画から林正太郎の作陶の模様がご覧いただけます。焼物がどのように出来上がるのかということや、作家本人の作品に対する強い気持ちを知ることができます。是非、ご覧になって下さい。
個人的には、動画の最後で語っていたことが特に印象的でした。
焼けて窯から出て、自分が思っているものが出来たと思っても、またそこからヒントを得たい。出来たものはその時の完成であるけれど、それからの出発点である。
焼物に対する執念というか、探究心には本当に頭が下がる思いです。
私は運良く沢山の作品を見て、そして実際に触れることができます。しかし、業務中は忙しさから、どうしても商材としてしか見られていない事に気づきました。それと同時に、どんな作家の作品でも、その考えや思いを感じていきたいなと改めて思いました。