作家・作品紹介

日本画の鬼才 速水御舟

日本画の有名画家といえば皆さんは誰を連想しますか?
近代画家であれば、横山大観東山魁夷平山郁夫らに馴染み深い人は多いのではないでしょうか。買取りの仕事を通じて数多くの有名日本画家の作品に触れる機会がありますが、その中でもなかなかお目にかかれない幻といわれている画家がいます。
本名「蒔田栄一」こと「速水御舟」です。
近代日本画の頂点のひとつともいわれ、疾風怒濤のように駆け抜けた天才、速水御舟について紹介したいと思います。

日本画の鬼才 速水御舟

速水御舟の生い立ち

速水御舟は、明治27年8月2日に東京は浅草で産声を上げました。幼少期から庭の植物や昆虫などの写生や、近所の蒔絵師から描き方を教わるなどしていました。
御舟が14歳の時に歴史人物画で有名な松本楓湖(68)の安雅堂画塾に入門します。この塾の先輩には今村紫紅や田中以知庵らがおり、同期入門にはライバルとなる小茂田青樹もいました。松本楓湖はどちらかといえば放任主義で、「これを模写しなさい、次はこれを」と模写中心の教育方針でした。楓湖には生涯で400を超える弟子たちがいたそうですが、御舟はその中でもとりわけ優秀な弟子だったそうです。

御舟はその才能を見抜いた紫紅の手引きで「紅児会」に入会します。紅児会とは今村紫紅安田靫彦の門が支柱となり生まれた新鋭作家の研究団体で、明治末年におけるもっとも評価の高い団体でした。御舟は期待通りに才能を発揮。45年には紅児会展に「緑陰」「雨後」を出品し、さらに注目度を上げる結果となります。
早熟の画才はその後も出品する作品が次々と評価され、大正3年に蒔田禾湖(まきたかこ)名から速水御舟と号を改めました。

その後も日本画の歴史に名を刻む作品を次々と発表していきます。古典的ながらも型にはまらず、やまと絵や南画など様々なジャンルを見事に融合させた作品を描く御舟が次に求めたのは真実を捉えることでした。
日本画はどこまで写実的に描けるのかという問題意識を元に描かれた「京の舞妓」のような精密描写を目指したのです。それは、当時御舟が洋画家の岸田劉生の影響を受け、写実的な様式の従来の日本画にはみられないものを追究した結果でもありました。

日本画の鬼才 速水御舟

写実性と象徴性が絶妙に調和した幻想的な世界

こうして徹底した精密写実表現を経て御舟が辿り着いたのは、代表作「炎舞」のような写実性と象徴性が絶妙に調和した幻想的な世界でした。
「伝統を脱して」描く、「新しい内容と形式」を以て描く。それでなければ新時代に生きる作家とは謂はれない。一か所にとどまらず、模索しつづけた御舟が残した言葉です。

琳派に代表される、日本古来の作品たちの技法や細密描写による写実表現にはじまり、古典的な絵画への回帰、単純化と平面性を伴う後期作品と、一人の画家とは思えないほどの多彩な表現を観ることができます。

ひと作品ごとに新たな境地をひらく御舟に皆が関心を寄せる中、病を患い40歳という若さでこの世を去りました。もともと寡作な作家であったこと、さらに関東大震災で多くの作品が焼失したこと、御舟が自分の気に入らない画稿や下絵を焼き捨てたことなどにより、現存作品は600点ほどといわれており、市場ではめったにお目にかかれない作家となっています。

うち約120点を山種美術館が所蔵しております。過去と現在の橋渡しをした画家として今もなお名を残す速水御舟の貴重な作品たちを観覧にいかれてはいかがでしょうか。

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