2023.07.18
名嘉睦稔 目の覚めるような色彩の木版画家
先日たまたまYoutubeで、名嘉睦稔(なかぼくねん)の制作風景の動画を見つけました。名嘉睦稔は弊社でもよくお取扱いしている作家ですが、どのように作品を作っているかなどは気に留めたことはありませんでした。良い機会と思い何気なく再生したのですが、思わず画面に見入ってしまいました。
圧倒の彫刻風景
睦稔は版木を前に座ると、まずは目をつむり集中します。目を開けおもむろに筆をとると、ものすごいスピードで下絵らしきものを描き始めるのですが、私にはただの黒い線がのたうってるだけで、いったいこれがどのような完成図になるのか全くイメージできません。下絵が終わると次は彫刻刀を手に取り、これまた一心不乱に掘り始めますが、先ほどの下絵はいったい何だったのかと思うほど、縦横無尽に彫り進めていくのです。そして気が付くと、版木いっぱいに彫り跡があらわれます。
続いては摺りの作業です。木版なので彫り残した部分が輪郭線となるのですが、黒いインクを版面に乗せると、びっくりするほど美しい図柄が浮かび上がりました。輪郭線を摺り終えると、その後は裏面から一枚一枚手で色を付けていくのですが、絵画制作に関しては全くの素人の私から見ると、あの何も無かった板からこんなきれいな作品が刷り上がることに、ただただ圧倒されました。
沖縄で生まれ育った睦稔
沖縄県伊是名島に生まれ、幼いころから絵を描くことが好きだった睦稔は、工業高校のデザイン科を卒業した後、上京して都内のデザイン専門学校に入学します。しかし高校で学んだことの繰り返しにうんざりし、子供が出来たことをきっかけに沖縄に戻り、広告代理店に就職、友人とデザインプロダクション設立を経て、フリーで仕事を請け負うようになります。版画を始めたきっかけは、クライアントからの依頼でした。
唯一無二の睦稔の「青」
正直、初めて睦稔の作品を見たときは、棟方志功を真似た作家なのだろうと思っていました。確かに睦稔は、版画を始めるにあたって棟方志功から衝撃を受け、彼と同じ裏彩色という手法を用いていますが、見れば見るほどそのデザインと色彩は唯一無二のものだと感じられます。頭の中にあるおぼろげな完成図は、刀を入れて彫っていくうちにどんどんピントが合い完成されて行くそうです。
私は睦稔の版画で、特に青色に目を惹かれました。空と海の青、明度の高い昼間と濃紺の夜の違いと様々な青色が紙の上に広がっています。
沖縄には先日訪れましたが、同じ日本でも沖縄は、どこか時間の流れがゆるやかで独特な気がします。多少の間違いも面白いと語るその自由さと、懐かしいようなそして目の覚めるような鮮やかな青色は、こうした土地柄が生んだものなのだと改めて感じます。
残念ながら今回は北谷にあるボクネン美術館に立ちよることは出来ませんでしたが、また機会があれば訪れたいと思います。