2021.05.11
原風景に魅了された最後の画家 林喜市郎
心の琴線に触れる古民家風景
向井潤吉や林喜市郎。その名を聞いて思い浮かぶイメージはきっと古民家風景ではないでしょうか。
古民家風景は日本の伝統建築であり、古き良き情緒あふれる光景です。中でも郷愁を誘う白川郷や五箇山の合掌造りの集落は国内外から沢山の観光客が訪れるほど人気があります。日本人のみならず心の琴線に触れる景色なのかもしれません。
合掌造という名称の由来は、掌を合わせたように三角形に組む丸太組みを「合掌」と呼ぶことから来たと推測されています。豪雪地帯にあり、積雪しないように45度から60度まで傾けて造られるその形には豪雪地帯ならではの工夫があり雪を自然と屋根から降ろす仕組みとなっています。
利便性、造形どれをとっても芸術的な伝統建築ではないでしょうか。
リアルを追求した林喜市郎の風景画
林喜市郎は千葉県野田市で産声を上げました。
若くして芸術を志した訳ではなく、きっかけは第二次世界大戦終戦後にシベリアに抑留されたことだったそうです。シベリアに抑留時代に自身の故郷を思い描いたからでしょうか、帰国後50歳を過ぎてから画家を志し始めます。
全国の民家を渡り歩き、風景画や民家の絵を主に描き始めました。写実的といってもいいほどにリアルを追及された写生が多く、その風景からタイトルが想像できる季節の植物、雪山など見るものを圧倒し、その空間に引き込む画力があります。
その表現力が評価され1970年に全国勤労者美術展知事賞を受賞、1971年には一水会入選を果たし、日伯現代美術展入選も果たしました。その後は日本全国の百貨店にて個展を開催し、多くのファンを魅了してきました。
林喜市郎の忍野富士
現在も古民家風景や、田舎の心象風景は絵画の題材として描かれていますが、今では古民家自体が少なくなっています。実際にその目で見たままをスケッチし、様々な原風景を書き残したのは林喜市郎が最後の作家かもしれません。その中でも私が圧倒されたのは山梨県の忍野村を題材とした作品です。
ダイナミックに描かれた富士山と古民家が勇気とパワーを注入してくれます。また、その自然豊かな風景に癒され、落ち着く作品でもあります。
忍野富士を題材とした作品は非常に人気度が高く、査定額も高くなる傾向にあります。
もし、林喜市郎の作品をお持ちでしたら、もう一度ゆっくりと眺めていただきたいです。その作品のどこに魅了されたのか、感動したのかを思い出してみてください。
コロナ過でステイホームに疲れている心を、林喜市郎の描く古民家風景があなたの心を癒してくれることでしょう。