2020.11.10
千住博の本質
今回は日本画家の千住博について書かさせいただきます。
千住博といえば、日本で代表する日本画家であり、100周年のヴェネツィア・ビエンナーレ絵画部門にて名誉賞を東洋人として初めて受賞した後も多くの賞を受賞し、制作では大徳寺聚光院の襖絵の制作、羽田空港の第1、第2、国際線ターミナルのアート・プロデュースを担当し、高野山真言宗総本山金剛峯寺の主殿2部屋の襖絵の制作を手がけたりと、私達の日頃の生活の場面でも目にかかることが多くありそうです。では、これだけ日本を代表する作家になった源はどこからきているのでしょうか。
千住博は、東京芸大在学中では稗田一穂、芸大の外では杉山寧に教えを受けていたそうです。千住の描く「宇宙」や「悠久」というテーマは、杉山寧の影響を受けていると言われてますが、画風は学生時代から稗田一穂に「筆一本で勝負しろ」と言われ続けており、箔など他の技法を一切使わせてもらえなかったそうです。その結果、絵画の本質を見失わず、エアブラシ、スプレーガン、洋画用ブラシから植物の水やりに使用する霧吹きまで、あらゆる種類の道具を使用し様々な技法に挑戦することで千住ワールドを作っていったと言われています。
そして、滝や鹿、宇宙などのテーマを制作していく過程で辿り着いたのは、芸術は多くの言葉や説明は必要なくシンプルな構図でも本質的な何かを見る側に届ければいいということに行き着いたのだと思います。
ある日、私の自宅に千住博の星のふる夜にの児童向け絵本が送らてきました。この本はうちの7歳になる娘の誕生日プレゼントに親戚からいただいたものですが、星を散りばめた夜空に静まり返った森に鹿の絵が描かれているだけでした。この本は森の中に住む鹿たちが人間世界に迷い込み、あとは千住の芸術的な絵が物語を押し進めていきます。森にすむ小鹿が流れ星を追いかけて体験する不思議な一夜の出来事で読者は小鹿の気持ちを考えながら物語が進んでいき、森から都会へ、そしてまた森へと場面は移り明け方に家族の元へと戻っていく展開です。そしてこの本には一切文字がありません。
私は、仕事柄多くの絵画や美術品を目にしていますが、手の込んだ作品や綿密技巧にも目を見張るものがありますが、シンプルなものほど人を飽きさせず、長く見ていられるものは無いと思います。人々の心に訴えかけ、今後も様々な作品を制作する、千住博に注目していきたいですね。