2022.08.23
内面の美「伊東深水」
日本画のモチーフを問われたとき、皆様は何を思い浮かべるでしょうか。
花や鳥、そして富士山などを題材とした作品は非常に多く、ごく一般的なイメージだと思われます。
そしてそれと同じようによく描かれている題材に「美人画」と呼ばれるジャンルがあります。読んで字のごとく、いわゆる女性を描いた絵になりますが、単に美しい女性をモチーフにするだけではなく、そこには内面の美しさ、女性の中にある美が強調的に描かれています。
そして美人画の名手と呼ばれる画家が存在します。香高い珠玉のような美を目指し女性初の文化勲章を受章した「上村松園」、明治時代の東京の風俗を映し出すような人物画を描いた「鏑木清方」、浮世絵風の様式と大正浪漫を融合させた美人像で人気を博した「竹久夢二」等。今回はそんな美人画を得意とした画家の中から「伊東深水」という作家をご紹介したいと思います。
受け継がれた玄冶店派の系譜
伊東深水(本名、伊東一 はじめ)は現東京都江東区森下一丁目に生まれました。
幼くして鏑木清方の門に入り“深水”の号を与えられ、15歳の時に「のどか」で巽画会に初入選。その後は16歳で院展に入選するなど若くして人気作家の一員となりました。
深水は玄冶店(げんやだな)派の流れを汲んでおり、師匠である清方より前をたどれば、歌川国芳から月岡芳年、水野年方と名だたる巨匠がでてきます。弟子には志村立美や岩田専太郎、浜田台児など、後進の育成にも尽力しました。
また、橋口五葉、川瀬巴水、吉田博らと共に新版画の画家として挙げられることもあります。そのきっかけは、鏑木清方門下による郷土会の会場にて、深水の絵を気に入った版元、渡辺庄三郎に誘われ、「対鏡」を第1作として版行したことでした。浮世絵の画系を引く深水には必然的なことだったのかもしれません。以降、引続いて美人画シリーズを刊行していきました。
余談ではありますが、女優として活躍した朝丘雪路の父親にもあたり、深水は一人娘の雪路をとても可愛がっており、着る着物を深水自らがデザインするほどだったそうです。
伝統的日本女性の美しさを繊細に描く
深水の絵画を見ると、いわゆる妖艶さというよりも、どこか品があり日本の女性の美しさが感じられます。現代では着ることがなくなってしまいましたが、和装を施した女性が雪の中を歩いていたり、踊りを舞っていたり。
線ひとつで女性の細微を書き分け、その内面までも描き出した画家、「伊東深水」。
皆さんも機会がございましたら、その魅力を一度味わってみてください。