2020.11.24
具体美術の代表的作家&絵本作家 元永定正
関西の代表的な前衛芸術グループであった具体美術は、戦後の日本美術を語る上で欠かせない“GUTAI”として、現在は国際的にも高い評価を受けています。
今回紹介する元永定正も、吉原治良に誘われ具体美術協会に参加し、精力的に活動していました。
具体派の作家たちは、リーダーである吉原の「人の真似をするな」を合言葉に、足で絵具を蹴るように描く白髪一雄、リモコンカーを使う金山明、絵具の入ったビンをカンヴァスに投げつける嶋本昭三など、変わった道具や方法で制作を続けたメンバーが何人かいました。
日本画手法から着想を得た元永定正
元永は日本画の「たらし込み」の手法に着想を得て、粘性のあるエナメル塗料を、少し傾けたキャンバスの下絵に沿って流す、という方法で制作していました。この頃の元永の作品は躍動的ですが、色彩もどこか重たくおどろおどろしい雰囲気があります。
この「流し」の画風は失敗から偶然生まれたもので、元永はこの時の失敗を「面白い」と感じたため、これでやっていこうと思ったそうです。
ユーモラスな抽象絵画へ
しかし1966年から67年に掛けての渡米後、元永の作風はガラッと変わります。
アクリル絵具やエアブラシを用いた詩的でユーモラスな抽象絵画は、それ以前の作品に比べて明るく軽やかな作風に変わっています。
この変化については、特に何かあったわけでもなくただその時の流れに従った結果だったと言います。この切り替えの早さを本人は、正式な美術の指導をうけていなかったため、一つの作風にこだわる理由がなかったからと語っています。
面白かったらやろうと、理屈抜きで描く元永の信念は、生涯の作家活動を通じて一貫していました。
絵本作家としての元永定正
平面作品、立体作品、パフォーマンスなど多岐にわたった活動をしていた元永ですが、特に有名なものとしては、谷川俊太郎氏と1977年に出版した『もこもこもこ』という絵本ではないでしょうか。100万部を超えるベストセラーとなったこの絵本は、「にょきにょき」や「ぱく」などといった谷川氏の軽快なオノマトペと、それを色と形で視覚化した元永の抽象的なデザインが、子供たちだけでなく大人たちもの笑いを誘い、夢中にさせたようです。
元永の作品のタイトルにも擬態語がたくさん使われていますが、これについて心理学者だった故河合隼雄氏は元永との対談で、日本に多い擬態語は身体性に関わっていると語っています。
そして頭で難しいことを考えず、のんびりとした、ふわっとした絵が描きたいと望んでいた元永の作品は、良い意味で知性的ではなく身体的であるため面白いのだと称賛しています。
現代人が知らない間に忘れていった、人間性とも感性とも違うこの身体性というものが元永の作品にはあふれています。彼の作品をみると、どこか懐かしい気持ちになるのはそのせいかもしれません。