2019.06.18
ノーマン・ロックウェルと人種差別へのメッセージ
今回はアメリカ合衆国市民の生活の哀歓を描いたノーマン・ロックウェルをご紹介します。
『サタデー・イーブニング・ポスト』誌の表紙絵のように、古き良き時代のアメリカの日常を描いた、ユーモラス溢れる彼の作品は、誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
しかしそんな心温まる作品とは反対に、彼は社会的メッセージの強い作品も残しています。
『The Problem We All Live With』は1964年に描かれた、ロックウェル後期の代表作で、2011年にホワイトハウスの大統領執務室の隣室に、この絵が掲げられたことで有名です。
この作品には、連邦保安官に守られながら白人の学校に通学する 6歳の黒人少女、ルビィ・ブリッジスの姿が描かれています。
壁には白人至上主義団体である『KKK』、そして黒人を差別する言葉の『Nigger』の落書き、そして壁に投げつけられ潰れたトマトはあたかも血液のように見えます。
アメリカでの人種差別の時代は長く、1868年にすべての者に対する「法律の平等な保護」を定める、アメリカ合衆国憲法修正14条が発効した後も、90年以上の長きにわたり人種差別が続いていました。
学校、病院、バスなどあらゆる場所で人種隔離が行われ、黒人に対する暴力も少なくありませんでした。
1950年代以降アメリカ国内では公民権運動が活発化し、1964年公民権法が合衆国連邦議会で成立しましたが、その後も1970年代のニクソン政権まで、南部ではほとんどの公立学校は人種分離されたままだったのです。
時は流れ2009年、合衆国には建国以来初の黒人大統領、バラク・オバマ氏が就任しました。
2011年にホワイトハウスでNR財団より貸与されたこの絵が掲げられ、お披露目の場にはルビィ・ブリッジスの姿もありました。
オバマ氏は彼女に「決して言い過ぎではないと思うが、あなたたちがいなければ、私はここにいないかもしれないし、こうして一緒にこの絵を見ることもなかったかもしれない」と伝えたそうです。
かつて人種関係なく、公民権運動に力を尽くした人たちがいたことを、私たちはこの作品から知ることが出来るのです。