2023.05.02
アールデコの父 エルテ
フランスのパリ万博から始まり、建築物やジュエリーに多く取り入れられるアールデコ様式。
直線的で幾何学模様を特徴としたその装飾芸術を意識することはありますか?
今回はアールデコの代表的な画家のひとりであり、晩年となる日本のバブル期では絶大な人気を博したエルテをご紹介します。
多彩な芸術家兼デザイナー
ロシアに生まれフランスで活躍した芸術家のエルテ。
画家にとどまらず、デザイナーとして映画や舞台の衣装デザイン、ジュエリー、インテリアなど多様なジャンルで作品を創作しました。
印象に残る『エルテ』というネームですが、本名はロマン・ド・ティルトフ であり、頭文字のフランス語・ロシア語の発音をとって『Erte』とされました。
本名を使わないのは、エルテが海軍に従事する貴族の家系で生まれ、名家としての誇りを持ち芸術を好まない家族への配慮であったと言われています。
20世紀を生きた芸術家の生涯
1892年に生まれたエルテは幼くして芸術の道を志し、二十歳で祖国を離れパリに移り美術を学びました。ファッション雑誌「ハーパース・バザール」では22年間で200を超える表紙をデザインし、舞台の衣装デザインなどを次々と手掛け、20世紀のファッション業界に大きく影響を与えました。
76歳で初めてのリトグラフを制作し、翌年には「イラスト・ザ・ビートルズ」の挿絵を担当しました。年齢にとらわれず、晩年に至っても精力的に作品を生み出し、およそ1世紀に及ぶ生涯を創作活動に捧げました。
「非現実」ー耽美の世界ー
アールデコの寵児として名を残したエルテですが、実はエルテ自身は芸術ジャンルに分類される事を拒んでおり、他者の影響を受けず『非現実』でしか存在しない美しさをモチーフにする事にこだわったと言われています。現に作品の多くに『空想』の衣装や装飾を纏った女性が描かれており、車のような機械技術の類いは一切見受けられないことがその思想を裏付けていますよね。
アールデコ調と見做されるスタイリッシュなデザインだけでなく、東洋の細密画やギリシャの陶器を微かに感じられるエルテの作品。社会の変化や現実に疲れを感じた時、エルテが描く『非現実』の耽美な世界を覗いて美しさを感じてみてくださいね。