作家・作品紹介

「ヘレンド」 ヨーロッパ陶磁器に見るシノワズリ(中国趣味)

ヨーロッパにおける陶磁器の発展は、お茶文化の発展と切っても切れません。
1600年代、イギリス、オランダで設立された東インド会社によって、アジアからヨーロッパへ様々な商品が入ってくるようになったことに端を発します。当時の主な交易品は、香料や胡椒などのスパイスでしたが、次第にコーヒー、チョコレート、そしてお茶などの嗜好品が中心となっていきました。17世紀後半から18世紀後半にかけて東インド会社は、お茶の他にも様々な商品をもたらし、異国趣味に留まらない熱心な東洋文物のコレクションが、人々の間でブームになりました。その結果、建築や家具、織物などに中国風のモチーフが盛んに取り入れられ、中国に対する関心と憧れは最高潮に達しました。それは陶磁器の世界でも同様でマイセンを始め、次々に磁器窯が設立された際も、当初それらの窯では、中国や日本の陶磁器を忠実に模倣しようとしており、シノワズリ(中国趣味)の文様が盛んに作られました。

「ヘレンド」 ヨーロッパ陶磁器に見るシノワズリ(中国趣味)

ヴィクトリア女王に愛されたヘレンド

そんな数ある窯の中で、今回ご紹介したいのはヘレンドです。
1826年、ハンガリーの首都ブダペスト郊外にある小さな村で、ヘレンドは開窯しました。ヘレンドがその名を知らしめたのは、1851年に世界で初めて開催されたロンドン万国博覧会でした。そして、ヴィクトリア女王が、ウィンザー城のためのディナーセットをヘレンドに注文したことから、その名声はヨーロッパの王侯貴族の間にも広がります。
牡丹の花と蝶があしらわれたこの柄は、19世紀ヨーロッパを席捲していたシノワズリを写したもので、女王の名にちなんで「ヴィクトリア」と名付けられました。ヘレンドの出世作として今も大切に作られており、2011年のウィリアム皇太子とキャサリン妃のロイヤルウェディングの際にも、お祝いとして贈られています。


「ヘレンド」 ヨーロッパ陶磁器に見るシノワズリ(中国趣味)

シノワズリ文様を独自に再構成したヘレンド

ヘレンドのシノワズリシリーズは、ユニークな特徴に溢れています。特に「マンダリン」の呼び名で人気を集めている立体的な唐子人形や、トカゲ・獅子のモチーフが、蓋のつまみやカップの持ち手にあしらわれているシリーズは、他の窯の作品とは一線を画します。このデザインは1840年代、ヘレンド二代目当主モール・フィッシャーの時代に、中国磁器の写しから生まれたとされています。牡丹や不思議な動物たちと、装飾模様が丹念に描かれた陶磁器は、ヘレンドシノワズリの世界観を見事に表しています。
ところが、ヘレンドがこういった東洋のデザインを自社に取り入れだした19世紀半ばは、実はシノワズリデザインの流行は下火になっていました。しかしヘレンドは、かつてのシノワズリ文様を独自に再構成することによって、新しいシノワズリを作り出しました。
そうして使い古されたものでなく、新鮮な感覚で作品を作り続けたことによって、シノワズリは現代にいたるまでの人気のシリーズとなりえたのです。

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