はじめに
日本の洋画壇に独自の足跡を残した高塚省吾。「裸婦の巨匠」と呼ばれるその作品は、繊細でありながら力強く、日本人の美意識に深く根ざしています。
本記事では、高塚省吾の人生と芸術を探求しつつ、作品の魅力やその背景について解説します。高塚省吾の世界に触れ、日本人の心に刻まれた裸婦画の神髄を感じ取っていただければ幸いです。作品の買取相場や高値売却のポイントについても解説します。ぜひ最後までお読みください。
高塚省吾とは?
高塚省吾は、1930年に岡山県で生まれた日本の洋画家です。東京藝術大学に入学し、梅原龍三郎、林武、硲伊之助といった著名な画家に師事しました。1953年に同大学を卒業後、恩師の硲伊之助の影響で第7回日本アンデパンダン展に出品。以後、第11回まで作品を出品し続けましたが、なかなか評価を得ることができませんでした。
初期の活動と挫折
卒業後、高塚は新東宝撮影所の美術課に勤務し、大学時代の仲間と「8人の会」を結成して個展を開くなど、画家としての道を模索します。
しかし、満足のいく作品に恵まれず、谷桃子バレエ団の美術担当や、NHK広報室のデザイン嘱託など、美術関連の仕事に携わる日々が続きました。1957年からは小津安二郎監督の映画タイトルも手がけるなど、多方面で活躍しました。
禅の修行と作風の確立
転機が訪れたのは、1960年代後半のこと。高塚は東京大学の佛教青年会で曹洞宗の坐禅会に参加するようになり、禅の修行を通じて自らの作風を見つめ直します。この時期から、風景と肉体が一体化した表現を試み、次第に透明感のある裸婦像を確立していきました。
高塚省吾の作品の魅力と特徴
高塚の作品の最大の特徴は、繊細で透明感のある女性像です。古来より裸婦画は油彩画で描かれるのが一般的でしたが、高塚はパステルを用いることで、絵画から光沢を抑え、裸婦本来の儚さや淡さを表現しています。
高塚の作品は、油彩画、パステル画、デッサンなど多岐にわたり、それぞれの技法で独自の魅力を放っています。油彩画では小物を添えることで奥行きを与え、パステル画ではやわらかな色調で女性の肌の質感を巧みに表現しています。
また、大胆な構図と細部へのこだわりが共存するのも高塚作品の特徴です。余白を活かしたシンプルな画面構成でありながら、女性の表情や手のしぐさなど、細部まで丁寧に描き込まれています。
デッサンは実際にモデルを見て、パステルやエッサンス(揮発性油を多めに使って油絵具で描く素描)で見たままを描きます。そして油彩画はデッサンやパステル画を基に彩画に書き直していきました。モデルがいるとその存在に影響されすぎるため、油彩画はモデルを見て描くことをせず、自分だけの世界で、自分の美意識にそって描き上げたそうです。
印象派との比較
高塚の作風を特徴づけるのは、印象派との比較です。印象派の画家たちが色彩を分割して光の効果を表現することに力を注いだのに対し、高塚は色数を絞り、余白を活かしたシンプルな構図を追求しました。この点で、高塚の作品は印象派とは一線を画していると言えるでしょう。
日本人女性の美しさの表現
高塚の裸婦画が、日本人の心に深く響く理由の一つに、日本人女性の美しさを見事に表現している点が挙げられます。白磁のような透き通った肌、控えめな肉付き、凛とした佇まい。
高塚が描く女性像は、日本人が理想とする美そのものと言っても過言ではありません。西洋画の技法を用いながらも、日本的な美意識を失わなかった高塚省吾だからこそ、成し得た表現と言えるでしょう。
高塚氏の「無限空間」とは?
背景の多くは白壁のようになっています。余分なものは描かないという禅的な思想が感じられ、高塚はこれを「無限空間」と名付けました。背景と人物が混ざり合い、描かれたものから外へ外へと広がるような絵ができればいい、と考え余白を意識した絵画構成をされています。
高塚省吾作品の買取相場・実績
※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。
二人静
高塚作品らしい透明感のある作品です。
ブレザー
パステル画がより写実的に表現されます。
高額査定が期待できる作品
高塚省吾の作品の中でも、特に油彩画や晩年に制作された作品は、高額査定が期待できる代表的なものです。
油彩画
高塚省吾が手掛けた油彩画は、その独特な重厚感と繊細な表現力が高く評価されています。これらの作品は、高塚省吾の技術と芸術的なセンスが存分に発揮されており、コレクターから絶大な人気を集めています。特に油彩画は、他の技法による作品に比べても査定額が高くなることが多い点が特徴です。
晩年の作品
また、彼の作品の中では、晩年に制作されたものが特に高値で取引される傾向があります。初期の頃は評価が低かった高塚省吾ですが、禅との出会いを契機に、裸婦画という新しい表現を確立。その後の晩年に至るまで画風を成熟させていきました。こうした時期の作品は、芸術性と希少価値の高さから、コレクターの間で非常に高い需要があります。
高塚省吾の作品を高値で売却するポイント
高塚省吾の鑑定機関・鑑定人
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。
ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
水彩・デッサン
主に紙に描かれていることの多い水彩やデッサンは、モチーフに対して紙の余白がある反面、しみや日焼けが目立つ事があります。
油彩画(額)
状態を良好に保つ為の保管方法
油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。
修復方法
油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。
版画
共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)
版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。
リトグラフ
石版画とも言われ、ヨーロッパの歴史では古くから用いられてきました。日本でも昭和から活発に使用され、各地にリトグラフ専門の工房が存在します。
高塚省吾についての補足情報
「開運なんでも鑑定団」での高塚省吾作品の評価
出典:「開運なんでも鑑定団」
高塚の作品は、人気テレビ番組「開運なんでも鑑定団」でも取り上げられています。2018年5月29日放送回では、高塚の裸婦画が鑑定されました。
鑑定士の山村浩一氏によると、番組で評価された作品は複製であり、原画のパステル画「コーヒー」は1993年に描かれたものだそうです。
また、山村氏は、高塚省吾が一貫して裸婦を描き続けたこと、昔は女性からの評価があまり良くなかったが、最近は女性の女性美に対する見方が変わってきたことで、再び人気が出てきていることを指摘しています。
このように、「開運なんでも鑑定団」でも高塚省吾の作品が取り上げられたことは、その芸術性と市場価値が認められている証と言えるでしょう。
高塚省吾の主要作品
・しらける 高塚省吾絵ッ声集 ブロンズ社 1970
・Artist close-up高塚省吾 文芸出版 1984
・高塚省吾作品集 芸術新聞社 1992
・高塚省吾パステル画集 芸術新聞社 1993
・高塚省吾作品集 2 光と風 芸術新聞社 1995
・高塚省吾の絵の話 芸術新聞社 1996
・高塚省吾作品集 3 まぶしい季節 芸術新聞社 1997
・美神讃歌 BSSポストカードブック 美術出版社 1997
・女 美術出版社 1999
・あさきゆめみし 芸術新聞社 2000
・いろはにおえど 芸術新聞社 2004
・美(うま)しうるわし 芸術新聞社、2009
晩年の個展活動と没後の展覧会
高塚は、晩年に至るまで精力的に個展を開催し続けました。1980年代から2000年代にかけて、銀座の日動画廊や日本橋三越本店など、東京を中心に数多くの個展を開き、コレクターや美術ファンを魅了しました。
高塚は2007年に盲腸がんのため逝去しましたが、没後も作品への関心は衰えていません。東京都中央区の画廊「四季彩舎」では、2007年から2021年まで、毎年5月28日の高塚の命日に、遺作展として個展が開催されてきました。
まとめ
本記事では、日本を代表する洋画家・高塚省吾の人生と作品について詳しく解説してきました。いかがでしたでしょうか。高塚省吾という「裸婦の巨匠」の人生と芸術について、理解を深めていただけたでしょうか。
高塚省吾の作品は、日本人の美意識と西洋の絵画技法が融合した、唯一無二の芸術です。美術館で作品に触れる機会があれば、その透明感のある美しさに酔いしれてみてはいかがでしょうか。日本が生んだ偉大な芸術家・高塚省吾の魅力を、存分に味わっていただければ幸いです。
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