はじめに
みなさん、元永定正という芸術家をご存知ですか?独創的な抽象表現と親しみやすい絵本で知られる元永作品。
「もけら もけら」や「もこ もこもこ」といった絵本で知られる一方で、その抽象画は独自の世界観で多くの人々を魅了してきました。
特に近年は、2013年にニューヨークのMoMAやグッゲンハイム美術館で「具体」をテーマにした展覧会が開催されたことをきっかけに、世界的な評価が高まっています。2015年のサザビーズのオークションでは、約1メートルの元永の作品が1億円近い価格で落札されるなど、その価値は年々上昇傾向にあります。
今回は、元永定正の生涯と作品の魅力、そして現在の市場での評価についてご紹介していきます。
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元永定正とは?
具体美術協会での革新的活動
1922年に三重県阿山郡上野町(現在の伊賀市)に生まれた元永は、実は当初、漫画家を目指していました。しかし、1946年に浜辺万吉に師事して洋画に転向し、その後1955年に吉原治良が主宰する具体美術協会に参加したことで、芸術家としての道を本格的に歩み始めます。
具体美術協会では「おもしろく見たことのないものを作ろう」という斬新な考えのもと、様々な実験的な作品を生み出しました。中でも特に注目されたのが、色水を入れたビニール袋を吊るした「水の彫刻」です。この作品は、当時の美術界では見たことのない表現方法として高く評価されました。
その後、1957年には大阪の阪急百貨店で初の個展を開催し、1960年にはミシェル・タピエの紹介でニューヨークのマーサ・ジャクソン画廊と契約を結びます。さらに翌年には、イタリアのトリノにある国際美学研究センターとも10年契約を結び、国際的な活動の場を広げていきました。
国内外での高い評価
元永の芸術活動は、数々の賞によって評価されています。1964年には第6回現代日本美術展で優秀賞を受賞し、1983年には日本芸術大賞を受賞。さらに1988年にはフランス政府より芸術文芸シュバリエ賞を受章し、1991年には紫綬褒章、1997年には勲四等旭日小綬章を受章するなど、その功績は国内外で高く評価されています。
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絵本作家としての功績
1970年代に入ると、元永は新たな挑戦として絵本制作を始めます。特に、1977年に谷川俊太郎との共作で生まれた「もこ もこもこ」は、今でも多くの子どもたちに愛され続けている代表作です。その後も「がちゃがちゃ どんどん」や「もけら もけら」など、独創的な作品を次々と発表し、1991年には「もけら もけら」で絵本にっぽん賞を受賞しています。
![もこ もこもこ](https://www.artkaitori.com/wp-content/uploads/2024/11/51Bf6cdEybL._SY466_-238x300.jpg)
![がちゃがちゃ どんどん](https://www.artkaitori.com/wp-content/uploads/2024/11/91QJ2uEqPML._SY466_-283x300.jpg)
![もけら もけら](https://www.artkaitori.com/wp-content/uploads/2024/11/51jdHneph7L._SY466_-288x300.jpg)
独自の芸術観と表現技法の確立
元永は絵具を流す技法や、エアブラシを使用した表現など、常に新しい可能性を追求し続けました。特に1958年頃からの「たらし込み」を応用した技法や、1966年のニューヨーク滞在で確立したエアブラシによる表現は、彼の代表的な芸術表現となりました。
元永定正の作品の魅力や特徴
「たらし込み」技法による抽象表現
元永の作品の大きな特徴は、絵具を流すことで生まれる有機的な形態です。この技法は日本画の「たらし込み」からヒントを得たものですが、元永はこれを独自の方法で発展させました。画面上部から静かに色を流し、重ねていくことで、独特の空間表現を作り出しています。
興味深いことに、この技法は偶然の産物から始まりました。「最初は流すつもりなど全然なかった」と元永自身が語っているように、絵具が偶然流れ出したことをきっかけに、新しい表現方法を見出したのです。自然の力を利用しながらも、流れ方や重なり具合は緻密にコントロールされており、そこに元永独自の芸術性が表れています。
エアブラシ作品の特徴と魅力
1966年のニューヨーク滞在以降、元永はエアブラシを使用した新しい表現を確立します。この技法により、より繊細なグラデーションや光のような効果を生み出すことが可能になりました。特に1970年代以降の作品では、鮮やかな色彩とともに、ユーモアのある形態表現が特徴となっています。
90年代になると、「ぼかす」技法と「流す」技法を同じ画面で併用するなど、さらなる表現の可能性を追求しています。この試みは、一見すると過去の手法への回帰のようにも見えましたが、実際には最晩年の作品につながる新たな展開となりました。
版画作品の世界
元永は絵本作家としての活動だけでなく、版画制作にも取り組んでいました。特にシルクスクリーン作品は、オークションでも頻繁に取引され、日本画の「たらし込み」の技法を活かした微細な色彩のトーンが特徴となっています。
作品タイトルにみる創造性
元永の作品タイトルにも独特の特徴があります。1970年代以降の作品では、《zzzzz》《ポンポンポン》《ヘランヘラン》といった擬音語や、意味を持たない言葉の組み合わせが多く見られます。これらは単なる題名ではなく、作品世界を広げる重要な要素となっています。
絵本作品における独創性
元永の絵本作品は、抽象画で培った表現方法を子どもたちにも親しみやすい形で展開したものです。特に擬音語や擬態語を視覚化した表現は、子どもから大人まで幅広い層に支持されています。谷川俊太郎や山下洋輔との共作による作品群は、文学性と視覚表現が見事に調和した独創的な作品として高く評価されています。
元永定正作品の買取相場・実績
※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。
あかみどり
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元永定正作品の査定・買取について、まずはお気軽にご相談ください。
元永定正の作品を高値で売却するポイント
元永定正の鑑定機関・鑑定人
モトナガ資料研究室
来歴や付帯品・保証書
来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。
贋作について
ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。
ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。
落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。
版画
共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)
版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。
シルクスクリーン
枠にメッシュ素材(シルクやナイロン)の布を張り、油性描画剤で直接絵を描いたり、マスキングをし絵の具の通る部分通らない部分を作った版を紙に乗せ写しとる技法です。絵画以外にも写真や被服等にも応用されています。
油彩画(額)
状態を良好に保つ為の保管方法
油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。
修復方法
油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。
元永定正についての補足情報
具体美術協会時代のエピソード
具体美術協会での活動は、元永の芸術家としての基盤を形成する重要な時期でした。特筆すべき作品として、1956年にライフ誌の取材で披露した煙を使った作品があります。約1メートルの立方体の木箱に丸い穴をあけ、その中に発煙筒の煙を充満させて輪を作るという斬新な表現でした。
主要美術館での収蔵状況と展覧会
2022年には生誕100周年を記念して兵庫県立美術館で大規模な回顧展が開催されました。また、2013年にはMoMAとグッゲンハイム美術館で開催された「具体」展で、元永の作品は国際的な注目を集めました。現在、国内外の主要美術館で作品が収蔵されており、その芸術的価値は世界的に認められています。
近年の展覧会・オークション情報
2015年以降、元永作品の市場価値は着実に上昇を続けています。特に具体美術協会時代の作品は高い評価を受けており、大型の作品は数千万円単位で取引されています。また、2016年の国内オークションでは、F100号の油彩画が約1700万円で落札され、その価値の高さが改めて証明されました。
代表的な公共モニュメント作品
晩年には、妻の中辻悦子との共作で、神戸市のHAT神戸・脇の浜なぎさ公園に全長30メートルに及ぶ「ゆめ・きずな」を制作しました。このモニュメントは阪神淡路大震災からの復興を象徴する作品として、今も多くの人々に親しまれています。
![ゆめ・きずな](https://www.artkaitori.com/wp-content/uploads/2024/11/3-300x211.jpg)
まとめ
元永定正は、具体美術協会での活動から絵本作家としての活躍まで、常に新しい表現を追求し続けた芸術家でした。抽象画という難解なジャンルを、独自の感性とユーモアで親しみやすいものに変え、さらに絵本という新たな分野でも革新的な表現を生み出しました。その独創的な作品は、今なお多くの人々を魅了し続けています。
特に近年は、国際的な評価の高まりとともに作品の価値も大きく上昇しており、「具体美術協会」時代の作品を中心に、その価値は揺るぎないものとなっています。
作品をお持ちの方、あるいは購入や売却をお考えの方は、まずは専門家による適切な評価を受けることをお勧めします。元永定正作品の価値判断には、作品の状態や来歴、そして制作された時期など、様々な要素を考慮する必要があるからです。ぜひ、信頼できる専門家にご相談ください。
当社では、あなたの大切な作品の価値を最大限に引き出すべく、丁寧な査定と適切なアドバイスを提供いたします。元永定正の作品の買取をご検討される際は、ぜひお問い合わせください。
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