池田満寿夫の作品価値と買取相場|版画・油彩・陶芸の特徴を解説

  • 池田満寿夫

はじめに

1960年代、32歳という若さでヴェネツィア・ビエンナーレ展版画部門の国際大賞を受賞し、世界の注目を集めた芸術家・池田満寿夫。

独自の銅版画技法で国際的評価を得た彼は、その後も油彩画、陶芸、文学と表現の場を広げ続けました。

この記事では、池田満寿夫の多彩な創作活動を振り返ります。ぜひ最後までご覧ください。

バルコニーのヴィナス
バルコニーのヴィナス

池田満寿夫とは?

幼少期と芸術への情熱

1934年、旧満州国奉天市(現在の中国遼寧省瀋陽市)で生まれた池田満寿夫。終戦後、母の郷里である長野県長野市に移り住みました。幼少期から芸術への関心が強く、高校時代には既に絵画コンクールで入選を果たすなど、その才能を早くから発揮していました。

高校卒業後は東京芸術大学を目指しましたが、油絵科・彫刻科合わせて3度の受験に失敗。それでも夢を諦めることなく、東京で酒場の似顔絵描きなどで生活費を稼ぎながら創作を続けました。19歳で自由美術家協会展に初入選したことをきっかけに、本格的な芸術家としての道を歩み始めます。

瑛九との出会いと版画への転機

池田にとって転機となったのは、画家の瑛九との出会いでした。瑛九の勧めで色彩銅版画に取り組み始めたことで、新たな表現の道が開けます。この時期の挑戦が、後に彼を国際的な版画家として押し上げる礎となりました。

版画家としての国際的評価

池田満寿夫の版画家としての才能が広く認められたのは、1957年の東京国際版画ビエンナーレ展への入選がきっかけでした。その後も同展での受賞を重ね、1960年には文部大臣賞を受賞。国内での評価を確固たるものとしました。

さらに1965年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)で日本人として初の個展を開催。この成功を背景に、1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレ展版画部門で国際大賞を受賞。棟方志功に次ぐ快挙として注目を集め、池田の名は世界的な芸術シーンに刻まれることとなりました。

裸のエマ
裸のエマ

表現の多様化—版画から陶芸まで

文学と絵画への挑戦

版画家として地位を確立した池田は、表現の幅をさらに広げていきました。特に1970年代には水彩画や油彩画において官能的なテーマを追求し、多くの支持を得ました。

また、小説家としても高く評価され、1977年に発表した『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞。絵画、文学、映画といった多彩な分野でその才能を発揮しました。

陶芸への転機

1980年代に入ると、池田の創作活動は立体表現へと向かいます。1983年から本格的に陶芸に取り組み始め、平面作品とは異なる新たな可能性を模索しました。特に晩年の般若心経シリーズでは、仏教的な精神性を反映させた立体作品を制作。これまでのエロティックな作風とは一線を画し、破壊と再生をテーマにした“破壊の美学”を体現しました。

テレビ出演や著書などを通じて一般層にも広く知られるようになりましたが、その活動の中心は常に芸術創作であり、晩年まで新しい表現を追求し続けました。

花瓶「色」
花瓶「色」

主な受賞歴

池田満寿夫の国内外での評価は、多くの権威ある賞によって裏付けられています。以下はその主な受賞歴です:

  • 1960年:東京国際版画ビエンナーレ展 文部大臣賞
  • 1961年:第2回パリ青年ビエンナーレ展 優秀賞
  • 1962年:第3回東京国際版画ビエンナーレ展 東京都知事賞
  • 1964年:第4回東京国際版画ビエンナーレ展 国立近代美術館賞
  • 1966年:ヴェネツィア・ビエンナーレ展版画部門 国際大賞
  • 1967年:第17回藝術選奨 文部大臣賞

1997年3月8日、静岡県熱海市の自宅で心不全により急逝します。享年63歳。4月からは多摩美術大学教授への就任が内定しており、後進の指導という新たな挑戦を目前に控えていた矢先の死でした。

池田満寿夫は、版画家としての国際的な成功を皮切りに、多岐にわたる表現活動で芸術界を牽引しました。その革新的な精神と独創性は、彼の作品と共に永遠に生き続けています。

池田満寿夫—作品の魅力と特徴

油彩作品—多様な影響と進化

池田満寿夫の油彩画は、彼の創作活動の中で重要な位置を占めています。初期にはユトリロやモディリアニ、松本俊介といった画家たちから影響を受け、灰色調の静謐な風景画を制作。その後、ピカソ風の大胆な造形やシュルレアリスム的要素を取り入れた多様な表現へと進化を遂げました。

1980年代から1990年代にかけては、女性像を中心とした作品を数多く手がけます。その中には雑誌の表紙画として広く知られるものもあり、彼の柔らかな線と独特の色彩感覚が多くの鑑賞者を魅了しました。この時期の作品は市場での流通も多く、現在でもコレクターに人気があります。

詩画集「おんな・おとこ」より
詩画集「おんな・おとこ」より

版画作品―国際的評価を得た技法と表現

池田満寿夫の名を世界に広めた版画作品は、具象と抽象を巧みに融合させた点が最大の特徴です。彼の版画技術の基礎は、画家・瑛九から学んだエッチングにありました。その後、銅版画、木版画、リトグラフ、シルクスクリーンといった多様な技法を習得し、作品ごとに独自の表現を追求しています。

特に、1960年代に制作された作品群は国際的にも高く評価されています。1966年のヴェネツィア・ビエンナーレで版画部門の国際大賞を受賞した「動物の婚礼」や「金曜日は雨」などは、池田芸術の集大成ともいえるもので、シュルレアリスム的な幻想性と緻密な技法が見事に融合しています。

1969年から約10年間、池田はヨーロッパやニューヨークを拠点に精力的な創作活動を展開しました。この時期の作品では雑誌写真などのグラフィカルな要素を取り入れ、より官能的な表現へと進化しています。

一方で、1976年に帰国してからは、伸びやかな線描を用いた躍動感あふれる作風にシフトしました。この時期には琳派に対する関心が高まり、日本的なモチーフを積極的に採り入れるようになります。この時期からリトグラフの制作も増加しましたが、70年代以降の版画作品は市場での評価額はやや厳しい傾向が見られます。

うつろなスフィンクス
うつろなスフィンクス

陶芸作品―晩年の新境地

池田は1983年から陶芸にも本格的に取り組み始め、晩年の重要な表現手段としました。特に注目すべきは、般若心経を題材にした立体作品です。これらは、池田が得意とした官能的な版画作品とは対照的に、仏教的な精神性と深い哲学性を湛えています。

また、池田の陶芸作品では、「破壊の美学」と呼ばれる独自の表現も見られます。あえて割れるように制作された作品は、再構築を象徴するもので、彼の創作理念を体現しています。これらの作品には、アメリカの陶芸家ピーター・ヴォーコスとの交流が影響を与えたともいわれています。

※陶彫・般若心経シリーズについては常設展示しているパラミタミュージアムのHPから詳細をご確認できます。

草笛

池田満寿夫作品の買取相場・実績 

※買取相場価格は当社のこれまでの買取実績、および、市場相場を加味したご参考額です。実際の査定価格は作品の状態、相場等により変動いたします。

天使のいる風景

買取実績価格:10~15万円

色遭い抜群の天使作品、人気あります。

池田満寿夫作品の査定・買取について、まずはお気軽にご相談ください。

池田満寿夫の作品を高値で売却するポイント 

来歴や付帯品・保証書

来歴や付帯品:購入先の証明や美術館に貸出、図録に掲載された作品等は鑑定書が付帯していなくても査定できる場合があります。
保証書:購入時に保証書が付帯する作品もあるので大切に保管しましょう。

贋作について

ここ数十年のインターネットや化学技術の向上により、著名作家の贋作が多数出回っています。

ネットオークションでは全くの素人を装い、親のコレクションや資産家所蔵品等の名目で出品し、ノークレームノーリターンの条件での出品が見受けられます。

落札者は知識がないがために落札後のトラブルの話をよく聞きます。お手持ちの作品について「真贋が気になる」「どの様に売却をすすめるのがよいか」等、お困りごとがあればご相談のみでも承っております。

油彩画(額)

状態を良好に保つ為の保管方法

油絵は主に布を張ったキャンバスと言われるものに描かれています。他にも板に直接描かれた作品もあります。油絵の具は乾燥に弱く、色によってはヒビ割れ目立つ作品が見受けられます。また、湿気によりカビなどが付着しやすく、カビが根深い場合は修復困難となってしまいます。高温多湿を避け、涼しい場所に飾りましょう。また箱にしまったままも湿気やすい為、最低でも年に2回は風を通すようにしましょう。

修復方法

油彩画修復の専門店にお願いすることが1番です。下手に自身で手を入れると、返って悪化するケースもあります。

版画

共通事項(状態を良好に保つ為の保管方法)

版画には有名画家が直接携わり監修した作品も多くあります。主に版画作品下部に作家直筆サインとエディション(何部発行した何番目の作品であるか)が記載されています。

主に紙に刷られており、湿気や乾燥に弱いです。また直射日光が長期間当たると色飛びの原因になります。掛ける場所・保管場所には十分注意しましょう。

リトグラフ

石版画とも言われ、ヨーロッパの歴史では古くから用いられてきました。日本でも昭和から活発に使用され、各地にリトグラフ専門の工房が存在します。

木版画

板に彫刻し、絵を描いた後に凸部分に色を塗り、紙に写しとる技法です。

銅版画

銅を削りインクを乗せ紙に写しとる技法です。銅版画の技法の中にドライポイント、メゾチント、エッチング、アクアチントなどがあります。

シルクスクリーン

枠にメッシュ素材(シルクやナイロン)の布を張り、油性描画剤で直接絵を描いたり、マスキングをし絵の具の通る部分通らない部分を作った版を紙に乗せ写しとる技法です。絵画以外にも写真や被服等にも応用されています。

陶磁器

状態を良好に保つ為の保管方法

ガラス質の釉薬で表面を覆われた陶器や磁器は、観賞用や日常食器などで使われることがあります。表面が主にガラス質な為、水で洗う等したら表面の主な汚れは取れます。唯一、割れや欠けは避けるように大切に取り扱いましょう。もし割れたり欠けたりしても「金継ぎ」と言う技法で修復は可能です。近年では金継ぎの跡も鑑賞の対象として評価されつつあります。

共箱(ともばこ)

陶磁器を収納する箱の事で、蓋の表に表題(作品タイトル)、蓋の内側に作家のサインが作家自身の直筆で記載されてあります。共箱は陶磁器の証明書の役割をしており、無い場合は査定額に響く場合もあります。

書付、識箱・極箱

共箱の分類に書付(かきつけ)と識箱(しきばこ)・極箱(きわめばこ)があります。
書付とは茶道具を中心に各家元が優れた作品に対して銘や家元名を共箱に記します。
識箱・極箱は、作者没後、真贋を証明する為、鑑定の有識者や親族が間違いがないと認定した物に共箱の面や裏に記します。

池田満寿夫についての補足情報

美術館

主要美術館の所蔵状況

池田満寿夫の主な作品は、三重県菰野町のパラミタミュージアムや熱海市の「池田満寿夫・佐藤陽子 創作の家」、そして池田満寿夫記念館などで、それぞれ常設展示されています。

また、京都市の京都国立近代美術館には佐藤陽子から寄贈された版画作品が所蔵されており、広島市現代美術館長野県信濃美術館も池田作品のコレクションを所有しています。

なお、1997年に故郷の長野市に設立された「池田満寿夫美術館」は、2017年に竹風堂の経営難により惜しまれつつも閉館となりました。

展覧会・回顧展情報

池田満寿夫の作品は、生前から数々の展覧会で紹介されてきました。特に1981年の「池田満寿夫25年の歩み 自選125点」展は、作家自身が選んだ代表作を網羅的に見ることができる貴重な機会となりました。

没後四半世紀を機に、2023年9月に長野県立美術館で「とびたつとき―池田満寿夫とデモクラートの作家」展が開催され、1950年代から1966年頃までの作品を中心に紹介されました。この展覧会は2024年1月から3月にかけて広島市現代美術館でも同展が開催され、多くの注目を集めました。

同年8月には上野の森美術館で「版画に見る昭和時代Ⅱ:池田満寿夫のいた時代」展が開催。

2025年2月からは長野県立美術館で「信州から考える 絵画表現の50年」が開催され、戦後50年の絵画表現を紹介する展覧会の中で池田作品も展示されています。

まとめ

東洋と西洋の美意識を融合させた独創的な表現で知られる池田満寿夫。版画、油彩画、陶芸と、その作品は多岐にわたり、それぞれの分野で確かな評価を得ています。

とりわけ1960年代の版画作品は国際的にも高い評価を受け、現在も美術品市場で重要な位置を占めています。

作品の売却をお考えの方は、まずは専門家にご相談ください。適切な評価と信頼できる取引をサポートいたします。

当社では、あなたの大切な作品の価値を最大限に引き出すべく、丁寧な査定と適切なアドバイスを提供いたします。池田満寿夫の作品の買取をご検討される際は、ぜひお問い合わせください。

池田満寿夫の作品の買取をご検討される際はこちらをご覧下さい。

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