2024.11.05
優美なレースドール アイリッシュドレスデン
皆さんは、世界中で愛されているアイルランドを代表する陶器ブランド、「アイリッシュドレスデン」をご存知でしょうか?
アイリッシュドレスデンは、ひとつひとつ職人の手作業によって丁寧に作り上げられており、その作品には歴史、伝統、芸術性、そして個性が込められています。このブランドのレースドールは、西洋陶器の代表的な存在として高い評価を受けています。
アイリッシュドレスデンのはじまり
「アイリッシュドレスデン」という名前には「アイリッシュ(アイルランド)」が含まれていますが、実はその起源はドイツにあります。ドイツのテューリンゲン州フォルクシュテットの町で、1895年に陶工アントン・ミュラーがロココ調の装飾的で美しい磁器人形を専門にした工房を設立したのが始まりです。この地では上質な磁器土が採れたため、最初は小さな工房からスタートしたものの、商業的な需要が高まったことで、1907年には本格的な製造所を設立しました。
ブランドマークの「MV」は、創業者のミュラー(M)とフォルクシュテット(V)の頭文字に由来しています。アントン・ミュラーの死後は息子のヘルマンが家業を引き継ぎましたが、1945年、戦争で製造施設が破壊され、ヘルマンも亡くなってしまいます。後にヘルマンの姪、ヨハンナ・ザールとその夫オスカーがアイルランドに移住し、その技術を受け継ぎ、1962年に「アイリッシュドレスデン」として事業を再開しました。
優美なレースの秘密
アイリッシュドレスデンの最大の魅力は、精緻でエレガントなレースドールにあります。このレースドールは、一体どのように作られているのでしょうか。実は、制作工程で本物のレースを使用しています。特殊な磁器粘土の溶液に浸した純綿のレースを、素焼きのビスクドールに一枚一枚、細かなひだを作りながら丁寧に配置し、約1300℃の高温で焼成します。この過程でレースの布地は焼失し、網目のみが残るのです。
この技術によって、ふんだんにレースがあしらわれたふわりとしたクリノリンスカートや花嫁のヴェール、リボンなど、柔らかさを感じさせる表現が可能になりました。レース部分は薄く繊細でリアルなだけでなく、耐久性も備えている点が大きな魅力です。また、人形の表情や衣装の彩色はすべて職人の手作業によって施され、その愛らしい姿と表情に目を奪われます。
アイリッシュドレスデンは創業から100年近く経ちますが、今なお世界中にコレクターが存在し、愛され続けています。一度は戦争によって失われかけたものの、多くの人の手によって受け継がれ、芸術性や歴史、思いが伝えられてきました。レースドールは、後世にも引き継がれていくべき美術品のひとつだと思います。ぜひ、一度その精巧で美しい作品を実際にご覧になってみてください。