作家・作品紹介

写実木彫師 高村光雲

今回は、木彫師の高村光雲についてご紹介します。
高村光雲という名をもちろん知っているという方もいるとは思いますが、名前は知らなくても美術の教科書などで作品を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

高村光雲の写実的な木彫

高村光雲の作品の多くは仏像が大半を占めています。
しかし、仏像を制作し始めたのは晩年になってからがほとんどであり、象牙の彫刻が流行ったころには木彫による鳥や獣の作品を多く制作していました。

写実木彫師 高村光雲

その中でも特に有名なのが「老猿」です。

この老猿という作品は、浅草奥山の猿茶屋から借りてきた猿をモデルにして制作されたと言われており、そのスケッチも現存しています。
ただ、写真でもわかる通りその彫刻は非常に精巧で完成度が高く、スケッチでは決して表現しきれない迫力が感じられます。

作品の題名どおり、まるで老いた人間のような風格をもつ猿だという事を表現しているのがよくわかります。


「老猿」に込められたシカゴ万博への思い

実はこの作品は、シカゴ万博への出品に向けて政府からの補助金で制作されており、万博への思いを込めて、光雲自身も特に力を入れて制作されたことがわかります。
また、この作品を制作している40代前半のころ、光雲は16歳になる娘を病で亡くしており、何かしらの思いもあり力強い作品を仕上げたのではないかと考えられます。

明治以前までの日本では美術品における「猿」という存在はタカやワシなどの猛禽類に襲われるか弱い動物として描かれることが多かったのですが、
この作品をよく見ると左手にタカの羽が握られており、負けじと追い払ったという後の姿だと知られています。
当時の日本の時代背景を模しているかのように欧米列強や中国などの列強国を鳥とし、小国日本を猿にたとえ、そんな日本でも負けないという表現を万博の出品作として表したのかもしれません。


高村光雲が作る作品は、動物に対しては一つ一つの毛並みなどを忠実に再現し、仏像に対しては繊細な表情を細かく彫るなど様々な工夫がなされています。
そして、その思いや技術は山崎朝雲や平櫛田中などの弟子に引き継がれていきました。

そんな高村光雲の作品、皆さんも機会があればご覧になってはいかがでしょうか。

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