作家・作品紹介

試行錯誤の男 鈴木蔵

試行錯誤の男 鈴木蔵

先日、ふらっと立ち寄った百貨店の展示会で、力強く無骨でカッコイイ陶芸作品に出会い、思わず見入ってしまいました。その作品は、志野焼の人間国宝である鈴木蔵(すずき おさむ)という作家のものでした。作家に興味が湧き調べてみると、彼は父と共に二代にわたる陶芸家の家系に生まれ、常に新しい表現を追求しながら、力強く独自の作陶スタイルを模索する姿がみえてきました。今回は、岐阜県の志野焼の人間国宝、鈴木蔵をご紹介します。


師であり、陶磁器試験場の技師・研究者の父 鈴木通雄

岐阜県土岐市に生まれた鈴木蔵は、幼少期より父・通雄(みちお)のもとで土に触れ、陶芸の道を志しました。父・鈴木通雄は釉薬の研究者で、鈴木蔵は彼から釉薬や陶土など、陶芸に関する基礎知識を学びました。その後、昭和を代表する美濃焼の陶芸作家・荒川豊蔵や、人間国宝の作家・加藤土師萌(かとう はじめ)に師事しました。また、地元美濃出身の知人の紹介で宮永東山の窯でも作陶をおこないました。工場長だった荒川豊蔵にかわいがられ、同時期に美食家であり陶芸家としても名高い北大路魯山人とも出会い、鈴木蔵は父のもとで本格的な研究や専門知識を身につけていきました。


試行錯誤の男 鈴木蔵

試し焼きしたピースは実に1万点以上

研究者である父のもとで志野焼の可能性を見出し、鈴木蔵は地道に研究と作陶を続けました。試し焼きを繰り返し、テストピースはなんと1万点を超えると言われています。
志野焼と言えば、陶土から浮かび上がる鉄分である「緋色」が特徴です。通常、志野焼の緋色や模様は薪窯でないと出すのが難しいとされていましたが、鈴木蔵はなんとガス窯で焼成をおこないました。最初は試行錯誤の連続で、バーナーの火口がステンレス製のため溶けてなくなってしまうなど、多くの失敗やアクシデントが続きましたが、着実にデータを記録し、科学的な裏付けを取りながら、一歩一歩成功への道を歩みました。「どうせやるなら前衛で。人のやらないことをやる。心に訴えかけるような力強いものができたら」と語る彼に対して、周囲の人からは「ガス臭い」などさまざまな意見が寄せられましたが、言われれば言われるほど彼はさらに意気込み、挑戦を続けました。


試行錯誤の男 鈴木蔵

日本人の物の見方

志野焼は日本独特の焼物で、アシンメトリーで歪んだ形が多く見られます。自然に歪んだものではなく、あえて故意に歪ませた作品も多く存在します。中国や西洋の陶器と比較すると、形や図柄にはシンメトリーのものが多く、日本独自の考え方ではないかと思います。その背後には、日本人特有の見えないものを想像する感性が志野焼に表現されているように感じます。
一見、偶然できたような自然な形の鈴木蔵の志野茶碗に出会った時、私は「感覚で制作できる天才肌の作家」と勝手に思っていました。しかし、テストを繰り返し着実に成功を重ねていく話を聞くと、彼がたいへんな努力家であることがわかり、偶然ではなく必然的に制作されているのではないか…?と、作品の見え方が変わりました。やはり、人々の心を揺さぶる作品は、並々ならぬ努力と研究のもとに存在するようです。
鈴木蔵は「ものをつくるということは、創作でなくてはならない。創作というものは時代のイノベーションなのだから」と話しており、彼の経験を生かし、志野焼の作品に新たな可能性を模索しています。ぜひ皆さんにも、現役陶芸家として最年長の人間国宝、鈴木蔵の作品に触れていただき、その力強さを感じてほしいと思います。

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