2023.06.27
塩谷亮 人の内面を描き出す写実画家
忠実な再現以上に描写対象が醸し出す空気感、手を伸ばせば触れられそうな気配がある。
今回は、若手写実画家として第一線で活躍する塩谷亮についてご紹介していきます。
息をのむ程の美人像、女性が持つ内面の憂いまでをも描く
塩谷亮の代名詞とも言える美人像。
先生のファンならずともそのイメージは美術業界に定着していると思います。
塩谷作品に登場する女性は皆美しく、細密に描かれています。
そして女性が持つ美しさや可愛らしさ、内面に秘めた憂いなど、それぞれの魅力が引き出されていて、そこにとても惹かれます。
はつらつとした生命感と言うよりも、しっとりと落ち着いた雰囲気が作品の世界に浸透しているのも良くて、それでいて今にも動き出しそうな気配もありますよね。
こういった見た目にも雰囲気的にもリアルな写実画を描けるのは、おそらく対象との距離感に妙があるのではないでしょうか。
近づき過ぎると細密に描けるが全体が見えなくなりますが、かといって離れ過ぎると対象の熱や息づかいを感じられるように描くのは難しくなります。
塩谷はその絶妙な距離を知っていて、いつもギリギリのところで作品を描いているのではないでしょうか。
溢れんばかりのリアリティが見る者の想像力を刺激する
表面的な美しさに加えて内面の美も加味できるのが塩谷の筆の強みです。
女性の表情や肌の表現はもとより、髪の毛、髪飾り、洋服の模様やレース、背景の自然の景色など、驚くべきリアリティで描かれています。
そして、作品の構図は見せたい対象に目線が誘導されるよう緻密に計算された後がみられます。
塩谷もまた写実作家の御多分に洩れず、寡作と言われていますが、このクオリティであります。それも致し方ないと言うべきなのでしょうか。
また、塩谷作品の女性には明確な思いが込められています。
例えばこちらの「明日」という作品では、鏡に映った物憂げな表情の女性が描かれています。
遠くに描かれた森や湖、象徴的な一本の木。
後ろ姿の彼女はもしかすると笑顔なのかもしれませんが、鏡が内面を映したものだとすると、心にある不安や憂慮のイメージが作品に込められているのかもしれません。
このように塩谷作品の世界を自分なりに想像するのも鑑賞の醍醐味ですね。
それも細密に描かれ、作中の世界のリアリティが万全だからできることなのだと思います。