2021.11.30
佐藤忠良(さとう ちゅうりょう) 子どもの造形教育にも力を注いだ作家
幼いころに触れられる美術作品とは何だろうか?私の周りにはどんな作品があったのか?ふと、そんなことを考えた結果、一番身近にあったのは「絵本」の挿絵だったと思い至りました。実際に絵画のオークションでは、絵本作家の「いわさきちひろ」「安野光雅」や影絵作家で絵本も手掛けた「藤城清治」の作品などは取り扱われています。
今回は彫刻家でありながら絵本の挿絵も手掛けた「佐藤忠良」をご紹介いたします。
芸術家と教育者を兼ね備えた忠良
皆さまが幼いころ身近にあった絵本にはどのようなものがありましたか?
「桃太郎」「浦島太郎」などの日本昔話、「シンデレラ」「赤ずきん」などのグリム童話など、考え出すと沢山の物語が思い浮かぶのではないでしょうか?私も色々な絵本に触れましたが、母に聞いたところ私が幼いころ一番好きだった話は「おおきなかぶ」だったそうです。おじいさんが育てた大きなかぶを、みんなで力を合わせて引っこ抜く。といったお話ですが、「うんとこしょどっこいしょ」の掛け声が楽しかったのか、読み手の母と一緒に声をだして読んでいたそうです。
様々な作家がこの絵本の挿絵を描いていますが、私の家にあった絵本の挿絵は佐藤忠良が手掛けていました。繰り返し読んだその絵本は、子どもっぽい可愛らしい絵柄ではなく、デッサンがしっかりとした中にどこか暖かく親しみやすい絵が描かれていたのを覚えています。
佐藤忠良は芸術家であると同時に優れた教育者としての顔を持っている事でも有名です。子どもが対象の絵本に、しっかりとした造形の絵を描いたのには理由がありました。忠良は、子どもの頃から誠実な本物の絵を見せ、子どもに伝えていくことが教育として必要だと考え、ただ子供に馴染む絵ではなく、その中に彫刻家ならではの本物のデッサン力を生かした絵を描かれたそうです。
また、小学校から高校までの美術の教科書作りに取り組むなど、積極的に造形教育に参加して、新しい世代に美術がより身近なものになるようにと語っていたそうです。
人々への愛情に溢れた造形
彫刻家としては恩師である朝倉文夫の言葉「一日土をいじらざれば、一日の退歩」を胸に自らを「粘土職人」と称し、日がな一日粘土に向かっていたそうです。
制作する作品には市井の人々をモデルにしたものや、家族が模された作品も多くみられます。その作品からは家族への多くの愛情が見てとれるほど、日々成長していく子どもや孫の成長過程が繊細に表現されています。
また、佐藤忠良の作品は「日本人の体質観」が表現されていると評され「骨格、肌観だけではなく、モデルになった方の出身地の情報まで読み取れてしまう」と言われるほどでした。
今回ご紹介した佐藤忠良の作品は札幌にある「佐藤忠良記念子どもアトリエ」で見ることができます。機会がありましたら是非訪れてみてはいかがでしょうか。