作家・作品紹介

書とアートを融合させた書家 榊莫山(サカキ バクザン)

奈良の大仏や南大門の金剛力士像で知られる世界遺産である東大寺。足を運んだ方も多く行ったことは無くても知らない人はいないのではないでしょうか?その東大寺の南大門前には世界遺産登録を記念して立てられた石碑があります。見過ごしてしまう、あるいは読めない訳ではないので特に疑問も持たず一瞥程度で済ませてしまう方も多いでしょう。しかし、石碑に書かれた『東大寺』という文字は個性的な書体で異彩を放っています。これは東大寺HPの題字としても使われている物であり、これを書いたのは有名な榊莫山(サカキ バクザン)なのです。

書とアートを融合させた書家

榊莫山の生い立ち

1926年に京都で生まれた莫山は、現在の三重県伊賀市で育ちました。幼い頃から書画に親しみ才能を発揮しながらも戦争時には徴兵され、終戦後は教員となるものの敗戦で彼を含む多くの人が先の見えない状況にありました。そんな中、1946年に第一回正倉院展が開かれることになり、天兵時代のお宝を観に行こうと、週末を利用して莫山は奈良に向かいます。しかし、そんな勇躍は長蛇の列と受付終了の立札に阻まれ莫山は気落ちします。ですが、そこが転機でもありました。わざわざ奈良まで足を運んだのだからと有名な書家であった辻本史邑を訪ね、運良く在宅中だっただけでなく仕事部屋にもあげて貰った莫山は、そこから辻元に師事することになり書の道に入りました。20歳にして辻元に師事した莫山は、20代という若さで日本書芸院や前衛書道の奎星会で最高賞に輝き名声を高め、当時美術記者であった司馬遼太郎らにも激賞され若くして書道会の頂点に立ち将来を嘱望されました。ですが、リベラルな思想の持ち主でもあった莫山は、伝統、形式、そして権威を重んじる書道会に疑問を抱きます。それ故に、32歳の時、師である辻元が亡くなったのを機にすべての役職を返上して書壇を退いて野に下ります。


書とアートを融合させた書家

人皆直行、我独横行

それからは、自由に莫山ならではの書の世界を広げていきます。山野を放浪し自然に触れながら、道標や文学碑、寺院の扁額、店の看板などの生きた「路傍の書」を訪ねて思索を重ねた莫山は、漢字一文字を大胆に扱った作品だけでなく書と絵、詩を組み合わせた「詩書画一体」の作風といったものを確立させました。アバンギャルドな書家としても知名度をあげた莫山の作品は書でもありアートでもあり、その名はアート界でも認知されていきます。バクザン先生の愛称でも知られるようになる程にCMやバラエティ等のTVにも出演し、エッセイや関連書籍において100冊を超える出版活動にも精力的に取り組みました。アートを融合させた創作や個展の開催は晩年まで続けられました。

焼酎よかいちのラベルには、莫山の詩が書かれています。
「花アルトキハ花ニ酔ヒ 風アルトキハ風ニ酔フ」
飾らない人柄で自由に最後まで野に生きながら、その野に美を見出した莫山先生らしい言葉ですよね。


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