2021.03.02
英国ポップ・アーティスト デヴィッド・ホックニー
近年耳にすることの多くなったLGBTQという言葉、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)、Questioning(クエスチョニング)またはQueer(クィア)等の、いわゆる性的マイノリティーの総称ですが、ファッションやアートの世界では昔から多くのLGBTQが活躍してきました。
法的に同性愛が禁止されていた時代から、比較的オープンに受け入れられるようになった現代まで、彼らは作品の中に自分たちのアイデンティティを反映してきました。今回ご紹介するデヴィッド・ホックニーも、同性愛者であることを公言している一人です。
デヴィッド・ホックニーの生い立ち
ホックニーは1937年にイギリスのブラッドフォードに生まれ、1959年にはロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートへ進学します。在学中にポップ・アート運動に参加するものの、初期の作品はフランシス・ベーコンの作品に似た表現主義傾向を残すものでした。
ポップ・アートは1960年代に入るとアメリカで花開き、ロイ・リキテンシュタインやアンディ・ウォーホルが世に出てきます。ホックニーも1963年にニューヨーク、1964年にロサンゼルスを訪れ、その後長期にわたりロスに滞在しました。ここでホックニーはプールを題材にした作品を多く制作します。
ホックニーとパートナーのピーターの日常
2018年11月のクリスティーズで約102億円で落札されたホックニーの『Portrait of an Artist (Pool with Two Figures)』は、クリスティーズの戦後・現代美術部門のチェアマンであるアレックス・ロッターが、「人々がホックニーの絵に望む全ての要素が、この作品には存在しています」とコメントしていたように、まさにホックニーの魅力が詰まった作品です。
ここに描かれている2人の人物は、ホックニーと彼のパートナーだったピーターです。他にも『Peter Getting Out Of Nick’s Pool』など、この頃のホックニーは彼とパートナーのごく自然な日常を写した作品を多く描いています。
同性愛が犯罪とまでみなされていた頃に活動していた、それまでのアーティストたちとは違い、ホックニーはより同性愛の本質を表現した作品を生み出していきました。
またプール付きの庭のある家や、暖かなアメリカ西海岸の陽気な光を、明るい色彩を使って描いた彼の作品は、陰鬱な天気の中で暮らすイギリス人たちにとって憧れに映ったようです。ちなみにこの作品は落札当時、存命画家のオークション史上最高落札額として話題になりました。
新技法を追い求めるホックニー
現在、ホックニーはロンドンにスタジオ、マリブに自宅を構え制作を行っています。
昨年は欧州のロックダウンのため、滞在していたフランス・プロヴァンスで身動きが取れなくなってしまいました。しかしそんな中でも、インスピレーションを形にし、iPadを使った作品制作に没頭していたそうです。
80歳を超えた今でもキャリアにこだわらず、新しい技法を積極的に試す好奇心や探究心は、20世紀を代表する画家にふさわしいものと言えるでしょう。