2021.02.16
独自の幻想世界を創り上げた画家 智内兄助
1948年に愛媛県今治市に生まれた智内兄助は、和紙とアクリル絵具を用いる独特な画法を確立した稀有な画家です。作品は主にハッチング技法という斜線を巧みに用いる描画法によって描かれており、日本画と洋画との境界を越えた革新的かつ斬新的な魅力を備えています。
その評価は国内のみにとどまらず、ヨーロッパ屈指の大コレクターとして名高いロスチャイルド家に多くの作品を蒐集されるなど、海外でも高く評価されている日本人画家の一人となっています。
日本文化に根付く美
日本には古来より「もののあはれ」という、日本文化における美意識や価値観に影響を与えた文学的・美的理念の一つでもある思想がございます。それは折に触れ、目に見、耳に聞くものごとに触発されて生ずる、しみじみとした情趣や無常観的な哀愁のことを指しています。
智内兄助は、そんな「もののあはれ」を基調とした作風によって独自の幻想世界を創り上げ、日本の伝統美である衣装紋様や花鳥風月を斬新な手法で捉えた絵師であると言えます。
その一方で、古典の伝統から逸脱することなく日本に根付く美意識を的確に捉えた上で高い次元へと昇華させていることが多くの人を魅了するのだと思います。
智内の人気と知名度が不動のものとなったのは、1992年から毎日新聞に掲載された宮尾登美子作の連載小説「蔵」の挿絵を担当してからだと言われています。
ゲームのメインビジュアルといった分野にも使われていたりするので、智内兄助の名前を知らなくても絵を見たことが有るという人も多いかもしれませんね。
私自身、仄暗くも妖しい幻想的な作品に一見しただけで惹き込まれそうになったのを覚えています。
幽玄にして煌びやかな作品は写真や画像を見ても大変素晴らしいと感じますが、冒頭で述べたハッチング技法によって描かれた繊細な線が生み出す細やかな陰影や卓越した技巧で描かれた耽美的な着物などは実物を見ると尚一層の感動と感嘆を与えてくれることでしょう。