2019.11.05
陶磁器の歴史と文様・神話の世界(葉山有樹)
今回は、佐賀県有田焼の陶芸家「葉山 有樹(はやま ゆうき)」さんとその作品の魅力についてご紹介いたします。
葉山有樹と陶磁器との出会い
葉山さんは日本陶磁の故郷で生まれました。
幼い頃、近所の谷川で沢蟹や小魚を漁るときに水底に散りばめられた陶片をみつけては、子供心に陶片に数十年数百年という時の流れを感じながら育ちました。
病気がちな陶商である父と一家を支えるために中学を出ると、地元の陶磁器会社に就職し、上絵付けの職人として腕を磨き、15歳の若さで厳しい伝統技法を身につけました。
しかし、仕事に熱心な葉山さんは、いつしか伝統的な文様を意味も知らずに書き写す仕事に疑問を持ち、古典・歴史をも学んで、文様への理解を深めていくのです。
歴史の担い手として
葉山さんは、文様のはじまりは「人間にとって最も恐ろしい飢餓や孤独や死の対極にある、豊穣と生命を生み育む母性の憧れと祈りの形」だと考えます。
古代文明の人々は豊かさの象徴である食物を保存する器に、一族の平安と繁栄の祈りを描きました。
葉山さんは先人達の奥深いこの精神性に教えを受け、文様に学び、思いを未来へと繋ぐ創作を続けています。
例えば「月の女神」と題されたこの作品は、中国の神話「嫦娥奔月(じょうがほんげつ)」とギリシア神話のアルティミスの秘めた美しさを融合し、古代の人々が創造した宇宙観を表現しています。
葉山有樹の超絶技巧とデザイン
葉山さんは、有田焼をベースにした染付を元に、細密な上絵付けをフリーハンドで施していきます。
融点温度が異なる様々な色を使い、時には5回~7回も窯で焼成します。
また、作品によっては高蒔絵(たかまきえ)の技法を応用した金の上絵付けを施したり、
西洋の優美なガラスの器等から着想を得て、有田焼で類を見ないボディデザインを生み出したりと、独自の発想力で作品を創造されています。
現在、葉山有樹さんは日本のみならず世界中の美術館や画廊・百貨店で展覧会やインスタレーションを開催され、本などの出筆等もされています。
2014年に愛媛県松山市で開催された「道後オンセナード」では老舗旅館ふなやの客室を作品化し、多くのお客様で賑わいました。
また、同年佐賀県武雄にオープンした工房兼ギャラリーは斬新な建築様式で観光先としても話題となっています。